INTRODUCTION
  • クランクイン~中国でしか撮れない
    壮大なスケールの映像LINK
  • 巨大な“咸陽宮”セットにて、
    クライマックスの撮影LINK
  • 戦うたびに成長していく、信のアクションLINK
  • 嬴政、楊端和、王騎、それぞれのアクションLINK
  • こだわりが詰まった衣裳、特殊造形LINK
  • 二つの王宮の豪華セットLINK
  • 緑豊かな九州や、富士山周辺にて過酷ロケLINK
  • クランクアップLINK
  • クランクイン~中国でしか撮れない壮大なスケールの映像

     争乱が続く中国春秋戦国時代(紀元前770年~221年)に、天下の大将軍を夢見る戦災孤児の少年・信と、中華統一を目指す若き王で、後の秦の始皇帝・嬴政の活躍を描く超人気漫画「キングダム」。実写化不可能と言われた原作を映画化するにあたり、制作陣は当初から物語の舞台である中国での大規模撮影を想定していた。ロケハンの末、撮影拠点として選ばれたのが上海から300キロほど南下した浙江省寧波市の象山県にある象山影視城。春秋戦国時代の宮殿を再現したオープンセットがあることが決め手だった。

     クランクインは、2018年4月8日。象山影視城からバスで30分ほどのところにある象山平原にて、大平原を騎馬隊が駆け抜けるシーンを撮影。日本で撮る場合、撮影用の馬をかき集めようとしても10頭にも満たない。が、ここ中国では約100頭が用意できる。ロケ現場で騎馬がずらりと並ぶ様子は圧巻の一言で、初日から中国での撮影のメリットを大いに実感することとなった。松橋真三プロデューサーは言う。「『キングダム』で重要なもののひとつがモブシーン。この映像が撮れただけでも中国に来たかいがありました」。王騎役の大沢たかおも、「こういうシーンが撮れるのが、中国ロケならではの醍醐味。ものすごい迫力でした」と手ごたえを語っていた。ここから20日間にわたる、中国での撮影がスタート。

  • 巨大な“咸陽宮”セットにて、クライマックスの撮影

     中国ロケ後半、象山影視城のオープンセットにて4日間に渡り撮影されたのは、本編のクライマックスとなる咸陽宮・王宮での戦い。既存のセットを秦のイメージである黒に塗り替え、建物に艶を出して『キングダム』仕様に。スタッフだけで約700人、兵士役のエキストラものべ1万人が参加し、日本映画としては異例のスケールとなった。

     セットを見たとき、「『キングダム』の世界がここにあると思った」と語ったのは、信役の山﨑賢人。肉体改造、アクション特訓など、全てを準備して撮影に臨んだはずだったが、実際のセットを目の当たりにし、そのあまりのスケールにかなり緊張が走ったという。しかし、その緊張を力に変え、どのシーンも、リハーサルから常に全力で演じ、声を枯らしそうになっても決して手を抜くことはない。信のような素直さ、熱さで現場を牽引していく。一方、嬴政役の吉沢亮は、見事な剣さばきを見せながら広場を駆け抜けるシーンを10テイクほど繰り返し、「酸欠で死ぬかと思った(笑)」と言いつつも、周囲には疲れを感じさせないクールな表情。クライマックスを早い段階で撮影することに対しても、「嬴政が何をやりたいかがはっきりして、その後のシーンが演じやすい」とポジティブに捉えていた。体を鍛えに鍛え大幅にサイズアップして王騎を演じる大沢たかおは、現場にやってきた瞬間から王騎としての威圧感、オーラを身にまとい、橋本環奈は、河了貂の蓑ですっぽり身をくるみながら、明るい笑顔で現場を盛り上げ、楊端和の長澤まさみは、「強く見せるため」に周囲と一定の距離を取り、凛とした雰囲気を醸し出す。どのキャストもすっかり役にはまっていた。この頃、原先生が撮影現場を訪問し、キャスト陣にサイン色紙をプレゼントするサプライズも。

     アクションシーンでは、ジャッキー・チェンのアクションチームなど最高峰のスタッフが集結。中国映画界で活躍するスタントマンやエキストラたちが多数動員され、佐藤信介監督の意図を中国人の演出部スタッフがメガホンで伝えていく。各カットの撮影前に、スタッフが小さな砂袋を振り回しながらカメラ前を走り抜け、人工的に砂埃を作り出し、監督の「Ready..Action!」の声で撮影がスタートする。大人数での大立ち回り、キャストひとりひとりの細かな表情など、カット数も膨大で、一日でも雨天中止となれば撮りきれないギリギリのスケジュールの中、小雨の合間を縫って奇跡的にすべてのカットを撮りきることができた。佐藤監督は、「大規模な撮影に慣れた中国スタッフとのコンビネーションもうまく行きました。期待した以上の画の豊かさ、かっこよさがあり、非常に手ごたえを感じています」と無事中国ロケを乗り切り、安堵の表情を見せる。

  • 戦うたびに成長していく、信のアクション

     漂と一緒に見た、“大将軍になる”という夢を叶えるため、信は剣を手にいくつもの死線を潜り抜け、自己流で戦い方を身につけていく。今回が本格的アクション初挑戦となる山﨑は、クランクインの約半年前から特訓・肉体改造を開始した。信らしい俊敏な動きを可能にするため、加えて貧しい身分の役柄ということで、筋肉をつけながらも体を極限まで絞り、撮影に備えた。「信のアクションは技術や型じゃなくて、泥臭く、打たれても打たれても立ち上がっていく気持ちを大事にやろうと思っていた」という山﨑。“誰よりも高く翔ぶ”信を演じるにふさわしく、ジャンプが大の得意ということで、映画の中でもその能力を効果的に活かしている。

     今回、信の戦いは大きく四つあり、まずは漂から受け継いだ剣で、復讐心を胸に無我夢中で戦う朱凶との戦い。撮影は千葉県・鋸南町にて行われた。2メートル近く身長がある朱凶に対し、力任せで、がむしゃらに剣を振り回す信。この戦いだけは、刀対決だけでなく肉弾戦もあり、ボコボコになりながらも立ち上がる信の姿が印象的だ。

     ムタとの戦いは栃木県宇都宮の竹林(若山農場)にて撮影。一見、強いのか弱いのかわからないが、俊敏でトリッキーなアクションを繰り出すムタに思わずひるんでしまう信。だが嬴政のアドバイスにより戦うことに覚醒、朱凶戦で自信をつけた信にとって初めての実戦で成長した姿を見せる。

     そして、王宮の右龍の回廊でのランカイとの戦いは、栃木の採掘場の地下にて撮影。ランカイは身長2メートル超えの役者が特殊装置に乗り、さらに上からワイヤーで吊って補助をした姿で演じている。撮影時期が6月だったにもかかわらず、ロケ現場は極寒で、寒さと戦いながらの撮影となった。

     最後は王宮の広間にて、最強の敵・左慈との戦い。演じるのは、本物の格闘家で戦闘術をマスターしている坂口拓。剣をよけることができるため、山﨑は本気で斬りかかるよう演出を受ける。実はアクションシーンの中で最初に撮られたシーンで、「まだ戦ってきていない中で、いきなり左慈戦をやるのは不安だった」という山﨑だが、「手を決めずに、本気で斬りかかっていい」と言ってもらって、信が覚醒するように山﨑のアクションも開眼。緊迫感あふれるシーンを撮ることができた。

     アクション監督の下村勇二は、「信は、剣を持つ相手に対し、突進していって飛び込んだり蹴ったり、ある意味無謀。だけど熱いものを持って戦っている。感情移入しやすい、成長を今後も見ていたいと思えるような新しいヒーロー像が生まれたかな、と。山﨑さんは運動神経抜群でポテンシャルがすごい。頭で考えるより本能で動いたときに、ものすごい跳躍やアクションをするんです。いつも本番で想定以上のものが出てきたのでやっていて楽しかった」とコメントしている。

  • 嬴政、楊端和、王騎、それぞれのアクション

     本作の舞台となる紀元前は中国の武術が形になっていない時代であり、アクション部は、戦いの動きをオリジナルで作り出すことができた。生きるか死ぬかの状況から繰り出されるアクションには、各キャラクターの個性が出ている。

     漂と嬴政を演じる吉沢亮は、剣道の有段者かつ、『銀魂』(17・18)の沖田総悟役で運動神経の良さは証明済み。戦災孤児で、自己流で剣の腕を磨いてきた漂を演じる際は、技巧も感じさせつつ型にはまらない、野性的なアクションを。一方、王族で正式な剣術を学んでいる嬴政のときは、癖のないきれいなアクションを見せている。

     山の民については、戦う際、四足歩行も、相手に噛みつくこともありとした。だが、楊端和は女王ということもあり、優雅でパワフル、かつセクシーに見える瞬間もあるアクションを意図している。長い手足で、2本の刀を見事に操ってみせた長澤。本番になると緊張し、アクションの大変さを実感したと言うものの、「とにかく人をなぎ倒し、斬り倒していくアクションで、気持ちよくできました」と語っている。

     制作陣によると、腕部分のみ筋肉スーツを作る案もあったという王騎だが、大沢は原作通り、極太の腕をトレーニングで作り上げてきた。その役者魂で、王騎の矛の一振りにすさまじい説得力をもたらしている。

  • こだわりが詰まった衣裳、特殊造形

     時代考証をしたうえで、映画的に必要があればアレンジを加えて制作された本作の衣裳。メインキャストの甲冑については、デザインを詰めたうえで、歴史もののノウハウを持つ中国に製作を発注。重厚感あふれる甲冑が完成した(昌文君の甲冑は30キロ以上もあったらしい)。

     本郷奏多が演じた成蟜のポイントとなったのが冠で、何十種類も試したうえで決定。ちなみに本郷は、「原作のイメージを一番大切にして、お客さんがなるべくムカつくように演じたいと思った。小生意気に、憎たらしく、小物感を出すようにしました」とその演技について語っている。

     山の民のコンセプチュアルデザインは、ハリウッドで『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(16)、『ブレードランナー 2049』(17)などのコンセプトアートを手掛けてきた田島光二が担当し、原作をベースにバジオウ、タジフ、楊端和の仮面、山の民の王宮などをデザイン。それを元に、特殊メイクデザイン・特殊造形担当の藤原カクセイが造形デザインをブラッシュアップさせ、新素材ウレタン、シリコンなどを用いて仮面を制作した。木、石、骨、動物の革、泥粘土などで作ったように見せ、果実をすりつぶしたり、岩を削ったような色で彩色。藤原は、自らがデザインしたものや小道具担当が制作したものも含めて約90種類の山の民の面を監修・制作したほか、朱凶やランカイの特殊メイクデザイン・邦画初となる機構の造形スーツも作っている。

     河了貂の蓑型戦闘服は、胴体部分を衣裳部、頭部を特殊造形が担当。みみずくやフクロウをモチーフにしながら、見ていると安心するような、ユーモラスな雰囲気も意識している。原作の大ファンだと言う橋本環奈は、「実写になるとこういう形になるんだなと。最初はもう少し蓑が大きかったんですが、少しずつ大きさを調整し、最終的にこの形に。蓑がやせ細らないように、撮影のたびに羽を直して見た目に気を配っています」とこだわりを語る。

  • 二つの王宮の豪華セット

     秦の咸陽宮の王宮本殿内については、時代考証に基づき、細部まで作り込んだ豪華セットが建てられた。外観同様、黒をベースにし、王宮の畏敬を感じさせるような空間で、秦の時代の皇帝の象徴である龍が、いたるところにモチーフとして使われている。なかでも玉座の後ろと柱にかたどられている龍は、秦の皇帝の屋敷に実際に飾られていたのではと言われている発掘物を参考に制作。さらに、背景の格子模様、香炉などの細かい細工は、青銅器の幾何学文様や饕餮文(とうてつもん)と呼ばれる獣面模様をベースに施し、床には当時の敷き瓦を再現。中国で800枚以上を制作し、セットに使用するという徹底ぶり。

     一方、山の民の王宮は、自然崇拝ということで様々な動物がモチーフ。岩をくりぬいたようなデザインで、咸陽宮と比べて安らぎを感じさせる。さらに、王族の避暑地もセットで制作。ここは二つの王宮とは差別化し、木目調のデザインとなっており、間取りは原作に描かれた八角形の外観を活かした。美術監督の斎藤岩男は、「ディテールの積み重ねが、最終的には全体の雰囲気に収斂していくと確信して、とことんこだわって作りました」とコメント。

  • 緑豊かな九州や、富士山周辺にて過酷ロケ

     本作の中国史監修担当で、始皇帝研究の権威として知られる学習院大学の鶴間和幸教授によれば、春秋戦国時代の中国・秦は緑豊かな土地だったとのこと。そのような土地を求めいくつかのシーンを九州(熊本、鹿児島、宮崎など)で撮影をすることに。たとえば、信、嬴政の一行が、山の民の戦士たちに囲まれる山道は、上から差し込む光が神秘的な宮崎の神々溝。幼い信と漂が剣で戦う森は、熊本県の夢☆大地グリーンバレーがロケ地となっている。

     一方、信と嬴政が河了貂に導かれて通る洞窟のロケ地となったのは、静岡県の富士宮市にある洞窟。スタッフもキャストも松明の煤で鼻の中まで真っ黒になりながら、信と嬴政が感情をぶつけあうシーンを撮った。「嬴政は、鼓舞するシーンで声を張り上げることはあっても、感情が荒くなる瞬間はあのシーンだけ。信がすごい熱量だったから、僕もそれを見てガッといってしまった。(山﨑)賢人との共演は4回目なんですけど、今回の賢人は爆発力が半端ないし、あえてコントロールしていない感じが見ていて気持ちいい。一緒にお芝居をしていてこちらも乗せられてしまう。やっぱりすごいなと思いながら見ていました」と吉沢が言うように、山﨑と吉沢の演技が炸裂し、見ごたえのあるシーンとなっている。

     里典の家は、静岡県の裾野にオープンセットを建築。周囲の畑を耕して、木を植え、馬と牛も用意。当時の土の色を調べて、同じ色を再現している。「漂が死ぬシーンで絶対に観客の心をわし掴みにしないといけない。誰もが泣くような素晴らしいシーンを撮ってほしい」と原先生からずっと言われていたという松橋プロデューサー。「そこが心の重荷だったんですよね。でも山﨑さんと吉沢さんが素晴らしい演技をしてくれて、涙なしでは見られないシーンになりました」

     過酷なロケ地、撮影が続いたが、山﨑は「過酷な状況に追い込まれれば、追い込まれるほど、なにくそと思って、気合いに繋がっていきました。それに、あの時代に信のような状況で生きていたら、絶対楽なわけはない。過酷な状況も演技に活かせました」と語っていた。

  • クランクアップ

     本作は2018年6月13日についにクランクアップ。佐藤監督は、「キャストの皆さんのイマジネーション、空想力に助けられたと思います。普段は和気あいあいと軽い感じでいるんですが、撮影が始まったときのパワー、スイッチの入り方に驚き感銘を受けました」と撮影を振り返る。さらに、「これは一つの寓話で、ファンタジーで、我々が解釈した歴史です。でも、『紀元前200年代にこういう熱い人たちがいて、広大な土地を統一していくときに、いろんな思いで生きていた人たちがいたんじゃないか?』と思いを巡らせられる作品になっていると思います」と作品への手ごたえを語る。

     主演の山﨑も、「とにかく『キングダム』は面白い原作ですし、僕ら生身の人間が演じることで、その熱さが伝わればいいなと思ってやってました。自分が今できることを全身全霊で全部ぶつけて演じました。この作品に関われて本当によかったなと思っています」とやりきった表情を見せる。破格のスケールの原作、破格のキャスト、そして日本映画としては破格の製作費。スタッフ・キャスト陣の熱い思いと、作品への愛情が詰まった、日本映画史に残る作品が誕生する。

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